大きく変わる中東情勢
エジプト軍部クーデターから半年: 極東ブログ
BBC News - Middle East protests: Country by country -
2011年の世界の動きのなかで目立ったもののひとつに、MENA地域の混乱がある。まだ終わっていない事柄であるし、重要でもあるので、ざっくりメモしておく。
始まりはチュニジアのベンアリ政権崩壊。これは貧困層の若者の焼身自殺がきっかけとされ、そこから若者らの大規模な反政府デモに発展、行政府と大統領官邸が暴徒に占拠された後に、大統領の逃亡と内閣総辞職により政権が崩壊してしまった。
背景の一部には若年層の失業や所得格差などの経済問題がある。MENA地域は総じて若年層の失業率が高く、人口割合も大きい。
また、暴徒の鎮圧の過程で、大統領が軍トップに「暴徒を撃て」と指示したところ、幹部がこれを断っている。どうやら、軍と大統領の関係は経済的な配分が理由で良くなかったようだ。さらに旧宗主国のフランスとの不和もあったとされる。
投石と放火だけで行政府を占拠できるとは信じがたいので、何かしら外部から反政府運動に援助があったのでは、とも思う。
今後チュニジアがどうなっていくのかだが、経済的に結びつきの強い欧州が深刻な金融問題を抱えていること、政治的な次のフレームが不確かな事などから、あまり良い見通しはない。太陽熱発電の主要な舞台の一つなので、私の仕事にもいくらか関係がある。
次にはエジプトの騒乱と政権崩壊が起こった。MENA地域に関してはほぼ共通して、失業や貧困などの経済問題が存在している。エジプトにもその要素は大いにあるのだが、こちらは米国やイスラエルとの国際政治に係る問題、軍部と大統領の利権争いの問題が大きかったようだ。
エジプトはこの地域では大国で、中東問題やスエズ運河を抱えることから世界経済への影響が小さくない。軍事部門を中心に米国とは関係が深く、ムバラク氏の方針と米国の意向の相違はかなり問題になったと見られる。さらに、エジプト経済はムバラク一族の企業によるものが大きな割合を占め、その利益配分が軍との不和の一因になったようだ。
そして、エジプト軍による隠れたクーデタという事になった。この争乱中、軍はうまく立ち回った。結果、軍による暫定統治は長引き、先日行われた選挙も公平公正ではなかったという意見がある。軍による市民への弾圧も、大統領の退陣以降は顕在化してきている。
政治的にも経済的にも宗教的にも、エジプトは長引く問題を抱えている。
リビアでは、隣国の混乱が政治改革を求めるデモを生じた。リビアの所得は比較的高いのだが、東西の部族対立が背景にあり政治的な衝突が存在していた。この動きに対して、カダフィ政権は傭兵を投入して、凄惨な弾圧を行った。一般市民の感覚としても酷いもので、国連はリビアの制裁に踏み切ったが、フランスを中心とするNATOはリビアの空爆を行った。
リビアの混乱は端的に言って部族闘争の類だったのだが、諸先進国はなぜ介入したのだろうか。一つには、フランスが選挙を控えており、外交上の成果をアピールするためだったと言われている。また、リビアが産油国であり、原油市場の混乱を抑えるためだったとも考えられる。
結果的に政権は崩壊し、カダフィ氏は殺害された。この際の動きに、フランスや米国が関わっていたと言われている。氏は国際司法裁判所から指名手配されており、関係した先進国の行動は問題だとも言われている。この国の行方だが、原油生産は各国の介入で安定するだろうが、部族をまとめるリーダは不在であり、政治的な安定は見えない。さらに、東部にはアルカイダ系勢力が存在するとされ、その対応も問題になる。
アルジェリアでも経済的な問題から反大統領、政治改革を求めるデモが発生した。ここは軍事政権であり、その力も強く、過去にイスラム過激派やアルカイダと対決、鎮圧している。デモ側の動きはそれほど強硬なものではなく、政府の対応も柔軟だったといえ、深刻な混乱にはなっていない。アルジェリアは産油国として大きなポジションを占めており、その安定は先進諸国の望むところであり、実際その通りになっている。
モロッコも小さなデモが発生したが、こちらも政府が対応したこと、国王は支持されていることから、安定した状態が続いている。
中東も政治的に揺れた。
バーレーンは経済問題の解決、民主化、シーア派差別の撤廃を訴えるデモが発生し、鎮圧に乗り出した政府との衝突で死者が出た。そこからデモは拡大、王政打倒を訴えるものに変化した。その後、GCCが軍を派遣して治安維持にあたっており、一時のような顕著な動きは抑えられている。この国は歴史的な経緯から、イラン系のシーア派が人口の7割を占めているが、統治しているのは(バーレーンでは)少数派のスンニ派である。シーア派はスンニ派から見れば異端であるため、差別されて経済格差が生じている。また、シーア派の後ろ盾はアラブ諸国と対立するイランであり、反政府運動への支援が疑われている。
バーレーンの政治体制の変化はアラブ諸国に大きな影響を与える。さらに、米軍の重要拠点であることから、この国の政治システムは簡単には変化させられない、という事情もある。
イラクは米軍がついに撤退したのだが、イランや反米勢力の影響を受け、親米的だったスンニ派の立場が悪化しつつある。イランは核開発を進め、米軍が居なくなった今、近隣諸国へ勢力を拡大しつつある。
イエメンは以前から南北対立、部族対立が深刻で、経済的にもアラブの最貧国という位置づけであり、状態のいい国ではなかった。アルカイダ系テロ組織も南部を中心に活動している。今回の問題では、サレハ大統領側も譲歩の姿勢を見せてはいるが、反政府側の勢いはとどまらない。GCCの仲介もあって大統領の退陣へ方向性は定まったが、その後にいかに政治経済を安定させるのか、テロを抑え込むのかというところは見えていない。
サウジアラビアも小規模なデモが発生したが、比較的所得が高く王政が支持されていることから、当面は問題ないとみられる。ただ、現国王は高齢であり、後継者は政治的にも宗教的にも強硬であることから、将来的に混乱する可能性もある。
目下のところ最も注目を集めているのはシリアだろう。政治的対立から反政府運動が発生したが、これは軍を大規模に投入することで弾圧されている。リビアばりに酷い状態で、過去にもこのような事例は繰り返されている。今回はMENA地域全体での動きもあり、アラブ諸国からも制裁の警告が発せられているが、シリアは対応をほとんど変えていない。なぜ国際社会を敵に回す道を選ぶのだろうか。
シリアの民族構成として、85%がアラブ人であり、他はクルド人やアルメニア人などの少数民族が占めている。他方、イスラム教がシリアのマジョリティであるが、ほとんどがスンニ派であり、アサド大統領の一族は少数のアラウィ派で、これはスンニ派からは異端視されている。旧宗主国のフランスの都合でアラウィ派が統治者になっており、この立場を逃すことが彼らに深刻な問題を引き起こす為に、強硬な弾圧を継続しているのだと見られる。
他方、現政権は反イスラエルであり、ヒズボラやハマスの支援を行っている。これらの組織は米国・イスラエルと直接対話のチャネルを持っておらず、実はシリア経由で交渉が行われている。現政権が崩壊してしまうと、これらの交渉に問題が生じる。さらに、隣国はイランでそのほかにも過激派が多数存在する地域であるため、シリアの安定は時間のかかる難しい問題である。
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