「新しい労働社会」なんて読んでみた
丁度インターンシップをやっている時期でもあるし、これから労働市場に出て行く訳で、参考になるかなと思って読んでみた。要約を載せるのはいかがなものかと思うけど、自分のメモでもあるし、本当にメモを用意しても書く気がしないし、どうしたものか。
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序章「問題の根源はどこにあるのか」…現代日本が直面している労働問題を考える上でのバックグラウンドである、日本での雇用システムの特徴が明らかにされる。
最初の前提として、日本では「職務」が明確になっていない雇用契約が主流であることが挙げられる。諸外国では各人が従事する職務内容がはっきりした契約が結ばれるが、日本では特定されている訳ではなく、職場のあらゆる業務を行う可能性がある。これは職場のメンバーシップ契約であると言える。
そこから、長期雇用と年功賃金、企業別労働組合の存在が論理的に帰結する。さらに、日本における採用・解雇や報酬管理の特徴、労使交渉によるベースアップについても、それらから当然生じる事象として捉えられる。
そして、企業のメンバーシップの外には非正規労働者が存在し、雇用や賃金に関して正社員とは異なる待遇を受ける事となる。
第1章「働きすぎの正社員にワークライフバランスを」…マクドナルドなどの「名ばかり管理職」問題や、ホワイトカラーエグゼンプションに関しての騒ぎは何だったのか。
過酷な労働条件下にあった店長の裁判の判決では、残業代の支払いが命じられ、メディアもそのように取り上げた。また、ホワイトカラーの残業代規制撤廃に関しても、世間では”残業代ピンハネ法案”と捉える風潮があった。
しかし、ファーストフード店の店長はそれなりに年収もあるし、管理職であっても一般のイメージとして不思議ではない。また、賃金は労働時間に依存する事が多いなか、だらだらと残業した者よりも短時間に仕事をこなした人の方が稼げる金額が少ないというのもおかしい。
マックの裁判に関して、法的には”管理職”と”管理監督者”は異なるもので、後者か否かが裁判の争点だった。これはより経営者に近い立場で労務管理を行う者の事で、労働時間と残業代支払の制限から除外されるというものだ。マックの店長はとてもそのような立場になく、これが監督者として認められていたのは歴史的経緯からだった。
ホワイトカラーエグゼンプションについても、世間の空気と経営側の建前論の苦しさから結局頓挫してしまった。
結局、この時は残業代管理と労働時間管理の問題が整理されずに混同されていた。残業代に関してはより合理的な方法を探る余地はあったし、それとは別に労働時間規制を導入することで健康・安全を守ることもできたのだが。
また、日本の雇用システムは超過勤務を常とし、不況の際には労働時間を短縮する事で雇用を維持する体制であることや、正社員の整理解雇の前には非正規労働者を削減する事が求められる事も示されている。
第2章「非正規労働者の本当の問題は何か?」…キヤノンなどで問題になった偽装請負は、それ自体は請負の人員が元請企業の指揮下にあったという、ただそれだけの違反であった。
戦後、労働者供給事業がほとんどの場合で禁止されて以降、請負への規制はゆがんだままで、労働環境の保全についても元請企業ではなく(うかつに関わると偽装請負になりかねないという要因もある)請負業者が責任を負うこととなっている。登録型の派遣事業についても、あくまで労働者供給事業ではなく派遣会社の従業員を配置転換しているという体裁を保つ為だけに、業務開始前に派遣先企業と労働者が面談を行う事さえできない。
そして、平時には有期契約を繰り返し不況時に契約を更新しない雇い止めなども、非正規労働者が増加した現在では大きな問題となっている。これについては、ある程度長い期間の雇用後に契約を打ち切る際には金銭を支払うという方法が提案されている。
また、欧州ではいわゆる非正規労働者と正社員が同一労働であれば同一賃金が原則であり、均等待遇でなければならないとされている。日本ではそうなっていないのだが、これは労働契約で職務内容が明確でないところから帰結する。職場でのキャリアや日本の雇用慣行を考慮した”均衡待遇”を考えることが現実的である。
第3章「賃金と社会保障のベストミックス」…日本では年功賃金が主流であり、これは”生活給”という要素も持ち合わせている。年齢を重ねれば家庭を持つようになるが、もし業務内容で一律の職務給であれば、生活を維持するのは難しくなるケースは社会全体で多くなると見られる。これについて欧州では政府の様々な援助が職務給のシステムとセットになっている。日本ではそこを主に各企業の賃金が支える仕組みである。
年功賃金はかつての日本の高度成長期においてある意味合理的であった。ビジネスの展開と技術革新に応じて労働力は再配置されなければならないが、職務給では労働者の抵抗が大きくなる可能性があり、リストラが滞る事態も多かった。年功賃金であれば、職種が違っても年次が同じなら賃金に大差はない。
ただし、若いうちに会社に貯蓄をし中年以降にそれを取り返すという仕組みであるから、生産性が高い若者には不満であるし、同じ企業に一生とどまる事になるし、生活の支えを各企業の存続に依存する事になるというデメリットがある。
また、就職氷河期に定職を得られなかった若年層が大量に出現すると、就職における年齢差別の問題が明らかになった。戦後の日本では、職業教育はほとんど企業が担ってきており、学校教育は職業という観点からは役に立たず、単に偏差値で人材の素質を判断する材料となっている。この構造では新卒で職を得られなければ職業教育を受ける機会を失い、挽回する機会は著しく減少する。
低賃金の非正規労働者や職業教育を十分受けていない者などに対して、生活支援をいかに行うのかも課題である。働く方が有利な社会構造にする為に、税制や公的給付をうまく構成しなければならない。例えば、生活保護を有期で更新するものに改めると共に、就職活動を行い職業教育を受ける為の貸付を行い、就職出来ればそれらの返済を免除するなど(あとは負の所得税やベーシックインカムの導入か)。
第4章「職場からの産業民主主義の再構築」…ここ数年、若年層のいわゆるワーキングプアが増加し社会問題となった。特に非正規・正規労働者の賃金格差について、これをいかに是正するかが話題となる事が多いのだが、ここにも年功賃金と生活給のシステムが関係しており、中高年の正規労働者との利害対立が生じている。
一般に、各企業の労働組合には非正規労働者は参加していない。つまり労使交渉では正社員の組合員の利益しか主張される事がないし、実際に整理解雇は非正規労働者を解雇もしくは雇い止めした後に労組と経営側との交渉の後に行われる。この手順は裁判所の整理解雇への判断でもある。
また、組合員でない立場の正社員の待遇が労使交渉によって不利なものとなり裁判となったケースもある。労組の建前は自発的な結社であり、利害関係者が全員関係する新たな労働者代表組織が必要なのではと言える。
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民主党になれば、というか誰が政権を握っても、10年以内に税・年金の負担が相当重くなるだろう。日本の国内市場は衰退が始まっているし、世界でのビジネスは競争が相当厳しいし、仕事は新興国に流れていく。そんな今後の世界で、うまい立ち位置を探すのは難しい。社会保障の再設計が日本には必要だから、改善されていく可能性もあるにはあるのだが。簡単には社会から消え去らない職務で、年金がもらえない事態や生活給制度が改められても対応できるような、そんな都合の良い仕事が得られるだろうか。
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